暗黒物質の正体を探る

物理学科  専任講師/二瓶 武史

図 宇宙のエネルギー密度の内訳

1.宇宙は暗黒物質に満ちている

 本年2月,NASAの人工衛星「WMAP」による,宇宙マイクロ波背景放射の非等方性の観測結果が発表され,大きな話題を呼んだ。
 その解析結果によれば,宇宙の年齢は137億歳であるという。更に,宇宙に存在するエネルギー密度の内訳は,光を発している通常の物質はわずか4%にすぎず,光を発していない「暗黒物質」が23%,残りの73%は「暗黒エネルギー(宇宙項)」と呼ばれるものであることが判明した。
 渦巻き銀河の回転速度の観測から,光を発していない物質すなわち暗黒物質が銀河のまわりにたくさん存在していることが以前から予想されていたが,WMAPの観測によってその存在を支持する結果が得られたわけである。

2.暗黒物質と素粒子理論

 では,暗黒物質の構成要素となっている素粒子は一体何だろうか。銀河形成の解析等から,暗黒物質の構成要素は,通常の素粒子に比べてかなり重く,他の粒子との相互作用が非常に弱い,安定な粒子でなければならないことが知られている。その素粒子は,現在すでに知られているものだろうか。
 素粒子物理学には「標準理論」と呼ばれるものがあり,実験的にもその正しさが検証されてきた。しかし,暗黒物質になりうるような粒子は標準理論に含まれていない。暗黒物質を説明するためには,新たな未発見の素粒子が必要なのである。
 標準理論を越えるより優れた理論として現在最も有力視されているのが,超対称理論である。この理論の中に登場する「ニュートラリーノ」と呼ばれる未発見粒子が,暗黒物質の候補としてふさわしい性質を持つ。当研究室では,このニュートラリーノが暗黒物質であるシナリオに基づき,超対称理論が暗黒物質に関する観測結果をうまく説明しうるかどうかについて研究している。
 ニュートラリーノは,電気的に中性な,スピンが1/2のフェルミ粒子である。質量が陽子の100倍程度以上と非常に重く,極めて弱い相互作用しかしないため直接的に検出するのは難しいが,安定に存在し,暗黒物質として宇宙のエネルギー密度には大きく寄与しうる。
 ニュートラリーノのエネルギー密度を計算する際,通常用いられる近似法では誤差が大きい場合があることが知られており,当研究室では,その近似法を用いない厳密な方法でエネルギー密度を評価する研究を行ってきた。

3.暗黒物質の直接検出

 暗黒物質は我々の身のまわりにも存在しているはずなので,実験室でのその直接的な検出を試みる実験も行われている。暗黒物質が検出器内の陽子や中性子と弾性散乱する際の陽子や中性子の反跳を,様々な方法で検出しようという訳である。
 現在までのところ,暗黒物質と思われるシグナルは検出されていないが,より精度の高い実験が計画中であり,近い将来,2桁ほど精度が上がると期待されている。それに伴って,より詳しく包括的な理論的解析が必要となるため,我々は現在その研究を進めている。
 このように,暗黒物質の正体を探ることは,大宇宙の理解を深めるのみならず,素粒子のミクロな世界の解明にも大きな役割を果たすのである。我々の研究が,標準理論を越える新しい素粒子理論を構築する上で何らかの示唆を与えることが出来ればと期待している。

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